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桜の花を見るたびに思い出すサクラという名のヤンキー女

俺は中学の時は気が小さく所詮、いじめられっ子でパシリ役だった。そんな俺に普通に気さくにしゃべりかけてくれる地元でも有名なサクラという名前のヤンキー女がいた。

当時のサクラはお水っぽい感じで、子供離れした美貌の持ち主で、喧嘩が強い美人さんだった。当然付き合ってる相手も、同じ学校の不良のリーダー格だったけど、弱い者いじめとかは嫌う同級生だった。

そんな二人はお似合いのカップルだったので、俺が入り込む隙などなかった。でも、ある夏祭りの日の夜に、一瞬だけサクラと交差する分岐点があったんだ・・・。


俺が中学生の時、サクラってうちの学校はもちろん周辺でも有名なヤンキー女がいた。

とにかく喧嘩が強いのとあと美人なことで。サクラは子供離れした美貌の持ち主だった。お水っぽいんだよね。彼女の場合なんて言ったらいいのか、ヤンキーにありがちなやたら反抗するとかそういうのではなく、とにかく自分の生き方を貫こうとする女だった。

まあ教師とはよく対立してたけど、いじめとかするような子ではなくて、俺みたいな「パシリ」役にも普通に気さくにしゃべりかけてくれるような子だった。怒らせたら怖いけど、サクラは基本優しい明るい子だった。


中学生だった当時サクラは俺と同じクラスで学校の不良のリーダー格のタクマと付き合ってて、原付で二人乗りして下校する姿とかよく見たもんだった。

タクマはまさに典型のヤンキーだったので俺は心底怖がってたけど、無茶苦茶な奴ではなくて、不良だったけど、弱い者いじめとかは嫌うようなやつで、俺が他行の人間に絡まれた時には助けてくれたりするようなやつだった。

今思うと俺が勝手にビビってただけで、いい奴だったんだと思う。まあ長くなったけど、要はサクラとタクマってお似合いだったのです。基本そんな二人に俺が入り込む隙などなかったし、サクラと俺は全く無縁に近かった。だけど、中3の夏休みに夏期講習で夜遅く塾から帰るときに事件があった。

その日は夏祭りの日で夜になっても町じゅう賑わってて、俺がいつも塾に行く時の通り道が神輿が通るので封鎖されてた。仕方がないから少し遠回りになるけど、神社の裏の林の小道を抜けて家に帰ろうとしたんだ。夜の真っ暗な林の小道をびくびくしながら俺は歩いてた。

そうしたら途中小道の脇にボロ小屋みたいなのがあった。俺は特に気にせずにさっさとそれを通りに抜けようとしたんだけど、小屋の脇を通った時に声が聞えたんだ。「あっあっあっ!」ってまさにセックスのさなかの女の声。最初聞えた時は気のせいかな、と思ったけど、はっきりと女の声は聞こえ続けるわけさ。

気になるから声のする方に近づいてみると、女の声は小屋の中から聞こえてるんだ。恐る恐る物音をたてないように気をつけて小屋に耳を立ててみると、「気持ちいい、すごくいい! もっとして!!」って女の嬉しそうにあげる声と、「ふっふっふっ」って規則正しく漏れる男の吐息が聞えるんだ。

セックスしてるかどうかはともかく、なんかスケベなことしてるんだな、って確信できて、俺は夢中でその声を聞いていた。ズボン大きく膨らませながら。中を覗こうと思ったけど、暗くてよく分からないし、余計なことして自分のことがばれるの怖かったから、俺は小屋に耳を耐えたままただただその二人の声を盗み聞きしてた。

女の声はどんどんヒートアップしていっていて、男の息は乱れるばかり。今思うと彼女たちはぼろ小屋の中で二人一つになって最高の瞬間を過ごしてたんだろうな。盗み聞きしてるうちにそのうちたまらなくなってきてね。俺は思い切って小屋の裏手に回って、このまま一発抜こうと思ったんだ。

その時ですよ。「ねえ、何してんの?」と不意に声掛けられて俺がびっくりして振り返ると、そこには俺を不思議そうに見ながらきょとんと首をかしげる浴衣姿のサクラがいた。あまりにびっくりしてその場で腰を抜かしそうになった。

だけど、声出しちゃいけないと思って、両手で口を押さえながらその場に座り込んだ俺をサクラは不思議そうに見つめてたんだけど、小屋の中の女の嬉しそうな叫び声を聞くと、「ん?」と事態に気付いた様子で、俺と同じように小屋に耳を当ててた。

そうしながら中の様子を察したのか、サクラは座り込んだままの俺を見ると、「スケベ」って白い歯を見せて小声で言って意地悪そうに笑うと、「なんかすごいね」ってなおも興味津々の様子で小屋の中の様子をうかがってた。この時の俺は恥ずかしいやらなんやらでパニック状態で、腰を抜かしたまま動けなかった。

それからもしばらくサクラは中の様子をうかがってたけど、ふっと耳を離すと座り込んだままの俺の耳元で、「行こ」って小さく囁くとそのまま俺の手をとって小道に戻ると、そのままとぼとぼとさっき俺が来た方に向かって歩きだした。

小屋から大分離れたあたりでサクラはふと俺の顔を覗き込むと、「覗きはあまりい趣味じゃないですぜ、兄さん?」って冗談半分に言って、そのままふっと小屋の方に振り返ると、「なんかすごい幸せそうじゃん。そっとしといてあげよ」そう言って優しそうなまなざしで小屋を見つめてた。

小屋から大分離れたけど、小屋の中の二人は一層テンションあがってたのか、女の歓喜の叫び声がかすかに聞こえてた。サクラに手をひっぱられながらの俺は茫然自失のままで。恥ずかしいし何かとんでもないとこ見られた、終わりだって言うような絶望感とかあって、泣きたいくらいだった。

林を出たあたりでそんな俺の様子に気付いたのか、サクラが「ねえ、大丈夫?」って少し心配そうにのぞきこんで来たので「あ・・・は、は、はい・・・」としどろもどろに不良様を怒らせてはならないと卑屈な俺は同級生の彼女に、敬語交じりに返事をする。

そうしたら「全然大丈夫じゃねえじゃん」ってちょっと呆れ気味にサクラは言うと、「ちょっと待ってて。なんか飲み物買ってくる」って、茫然としたままの俺をバス停のベンチに座らせて、そのままたたたっと走り出してしまった。俺はそんな彼女を見るわけでもなく、ただぼうっと道路を見つめるだけ。

しばらくして、「ほら、買ってきたからこれ飲みなよ」ってサクラがどこかで買ってきたんだろうサイダーの缶を俺に渡すと、俺の横にちょこんと座って、片手にもう一つ持ったままだった俺に渡したのと同じサイダーの缶をぷしゅと開けて、気持ち良さそうにごくごくと飲んでた。

俺はそれからもぼうっとしたままだったんだけど、「飲まないの?」ってサクラに促されてようやくサイダーを口にすると、なんだかそこでようやく少し落ち着くことができた。なんか大きくため息が漏れて、そんな俺を見ながらサクラは、「ねえ、ホントに大丈夫?」って心配そうに声を掛けてくれた。

「だ、大丈夫です・・・」と俺が返事するとサクラは、「だったらいいけど・・・」そう言って俺を見つめたままサイダーを口にしてた。少し落ち着いてくると、さっき俺が盗み聞きしてたことの「すごさ」が、なんだかか改めて実感できるようになってきて、「何か・・・すごかったっすね・・・」俺は自然に呟く。

するとサクラは、「うん・・・」と小さくうなずいて、「いいよね、あんなにセックスに夢中になれるって・・・すごく気持ちよさそうだったじゃん」とうらやましそうに、そしてどこかさみしげにつぶやいた。今思えばこのサクラのセリフって中学生が言うようなセリフじゃないと思う。

だけど、この時の俺はそんなことに全く気付けず・・・ただ、「そうですね・・・」って返事をするだけだった。俺の中ではまだ興奮はあったけど、けどそれを表現する言葉がうまく出てこなかったし、なぜかサクラも黙ったままになってしまったので、そのまま二人は沈黙してた。

しばらくして沈黙が重たくなってきたころ、サクラが「一人」ということに気付いた。恋人タクマがいない。夏祭りのようなイベントなら一緒にいても不思議じゃないのに、この時彼女は一人だった。「あれ・・・? 今日はタクマ君は・・・?」このことを不思議に思った俺が恐る恐る呟く。

するとサクラは少し驚いた様子で俺の方に振り返って、「別れたからだけど?」とあっさりと言った。「へ?」思わぬ言葉に俺が声を上げると、「ケンカしたから別れた。だから私一人だよ」そう言ってサクラはぐびぐびとサイダーを飲み干すと、「つか私がタクマと別れたってもう有名な話だと思うけどな。知らなかった?」と言い出した。

俺を見つめたまま小首をかしげたけど、友達がいなかったパシリの俺はサクラとタクマが別れたという話など伝わるはずもなかったので、全く知らなかった。「すいません・・・」と何か悪いこと聞いたと思って俺が頭を下げると、「いいよ別に。つか何で敬語? 私たち同級生じゃん?」と言う。

そして空になったのだろう。缶を脇に置いたサクラは俺をじっと見つめると真顔で言った。「前から思ってたけどあんたさあ、勝手にビビりすぎ。だから舐められてパシリばっかさせられるんだよ」と説教された。

サクラの言うのは今になると正論だとは思うが、この当時の俺にはサクラやタクマのような不良軍団に敬語なしで話すなどとんでもないことで・・・。どう返事をしていいかわからない俺が黙ってうつむいたままでいると、何を思ったかサクラは急に俺の顔を覗き込んで言った。

「ねえ、私のことどう思う? 怖い?」サクラが怖いのは言うまでもないことだった。当時の彼女はすでに空手の有段者だったし、彼女を怒らせたために半殺しの目にあわされた人間がいるのもわかってる。けど同時にメチャクチャ美人で可愛かったのも事実だ。

そんなに化粧っ気のない彼女だったけど、それでも学校の中じゃずば抜けて綺麗だったし、それにその仕草の一つ一つが無邪気でかわいらしいのも確かだった。この時もそうだけど、俺のようなパシリにも気さくに話しかけてくるような優しさもあった。

「怖い・・・ような・・・その・・・」
「その?」

どう言っていいのか分からずしどろもどろになる俺を促すように、彼女が俺のことを覗き込んだままつぶやく。しばらくの間をおいて俺は目をぎゅうっとつぶって「その・・・すごく綺麗・・・可愛い・・・とも・・・思い・・・ます・・・」と言った。

この時の俺は彼女に恋愛感情などなかったから、これは告白とかいうようなものではないのだけど、けど怖いのと恥ずかしいのとで顔が焼けるように熱かった。

そんな俺を彼女はきょとんとした様子で見つめていたのだけど、「怖くて、綺麗で可愛い?」そうぽつりとつぶやくと、急にケラケラと声を上げて笑い始めた。「そっかあ、君には私はそんな風に見えてるんだね。そっか、怖くて綺麗で可愛いか・・・あはははは!」何がおかしいのかサクラは笑い続けていた。

彼女の笑いに俺はなんだか馬鹿にされてるような感じがして、あまりいい気はしなかったのが本音だけど、それを露わにする勇気などなく。と、不意にサクラは笑うのをやめると、ふっと夜空を見上げながらつぶやいた。

「君の言う通りだよ」
「え?」

俺が顔を上げるとサクラは夜空を見上げたまま、「みんなねえ、私のこと綺麗とか可愛いとか言ってくれるんだけど・・・。私自分の気持ちを抑えきれないタイプだからさあ・・・キレると手がつけられないんだよね」そう言ってふっと俺を見つめると、「だからタクマにも捨てられちゃった」とつぶやいた。

この時の街灯に照らされたサクラのあの寂しげな笑顔は忘れられない。あんなに寂しげでそして美しい表情は見たことがない。後々わかったことだけど、サクラがタクマと別れたのは、些細なことでサクラが激高したのをきっかけに、タクマが愛想を尽かしてしまった、というのが実情らしかった。

だから「捨てられちゃった」というわけだ。おそらくは彼女自身そんな自分の欠点をよくわかっていたのだろう。しかしそれを克服できないままいつももがいていたのだろうと思う。その想いがあの寂しげな笑顔を作っていたのだと思う。

儚げで寂しげでそしてあまりにも美しいあの笑顔を。俺はただそんな彼女に魅せられているだけだった。

それからお互い口をきかず黙ったままだった。夏祭りのメインストリートから外れた林の入り口の付近には人がほとんどいなかった。かすかに遠くから祭りの歓声は聞こえてくるけど、ここでは嘘のように静かだった。再び沈黙を破ったのはサクラだった。

「なんかさ、うらやましくって・・・」
「はい?」
「さっきの二人。」
「ほら、あの小屋でセックスしてた・・・」
「ああ・・・」
「好きな人と思い切り一つになれるんだよ。」
「最高だよ。すごく幸せだよ・・・」

そう言いながらサクラは涙をぽたぽたとこぼし始めた。「いいね、好きな人と一緒にいられるって・・・すごくいいね・・・」この時の彼女はタクマとの失恋の傷が癒えていなかったんだろう。

涙をぽたぽたとあふれさせていたサクラはそのままワンワンと声を上げて泣き出した。俺は突然の事態にどうしていいかわからずおろおろとするばかり。

しばらく俺がおろおろとし続ける中、彼女はワンワンと泣いていたのだけど、ようやく落ち着いたのか鼻をぐずぐずと鳴らしながら両手で涙を拭うと、「ごめん」そう小さくつぶやいて俺の方に振り返り、涙でぐしゃぐしゃになったままの顔で白い歯を見せてニカっと笑った。

それはあまりにも痛々しい作り笑い。俺がおろおろし続けるのに気を遣ったのかどうかわからないが、サクラは明らかに無理をして笑顔を作っていた。その瞬間、俺の中でたまらないものがあって、いまだに自分でも信じられないんだけど、次の瞬間彼女をぎゅうっと抱きしめてた。

「ちょっと!」とサクラは突然のことにびっくりした様子だったけど、大きく抵抗するようなことはなくて、いつしか俺の背中に両手を回していて、お互い抱き合う格好になってた。あまりにも華奢で細いあたたかな身体、俺の胸に当たるやわらかなおっぱいと、そして彼女の髪の甘いシャンプーの匂いが今も生々しく印象に残ってる。

大人だったらここでそのままキスしたりするのだろうけど、この時の俺にはそんな知識も技術もないから抱きしめることができなくて・・・。けど、ただ抱き合っているだけだったのにそれはすごく気持ちよくて幸せな時間だった。抱き合いながらサクラは再びグスングスンと涙をこぼしてた。

お互い身体を離したのはしばらくしてからのこと。「びっくりさせんなよ」サクラは意地悪そうに笑いながら言うと俺の頭をこつんと軽く小突いて、「けど、ありがと」そう言ってふっと微笑んだ。彼女に礼を言われるようなことなど俺は何もしてない。けどこの時サクラはなぜか俺に「ありがと」と言ってくれた。

俺は自分がとんでもないことをしたことに気付いて再びおろおろとしてたのだけど、彼女はこのことについて特に何も言わず、静かに立ち上がると、「じゃあ帰ろっか?」そう言って俺を見つめた。「は、はい・・・」びくつきながら俺が立ち上がろうとすると、「ほら敬語!」サクラはピシッと俺を指さして鋭く言う。
 
「そこは、『うん』とか『ああ』でいいんだよ」そう言って笑った。「そ、そうだね・・・」俺が言うと彼女は「うん、それでいい」と大きく頷きながら笑ってた。

結局、彼女との思い出はここまでだ。夏休みの間それ以後彼女と会うことはなかったし、夏休みのあと彼女との関係が大きく進展するようなことも何もなく、そのまま卒業を迎えた。

あえて言えば、卒業式の日に彼女はメモ帳を俺に差し出して、「住所ここ書いてよ」と卒業式間際にありがちな恒例儀式を執り行った程度。俺が住所を書き終えると、「また今度会おうよ、ね」そう言って無邪気に笑い、自分の仲間たちの方に戻って行った。

これが彼女と口を聞いた最後だ。その後、俺と彼女はお互い別々の進路をたどった。聴いた限りの話じゃサクラは高校に行くもすぐに中退、その後はキャバ嬢、そしてソープ嬢となり高い人気を誇ったらしい。典型のDQNの道を突き進んだと言っていいだろう。


しかし、今から10年前、22歳の時サクラは交通事故であっさりと死んだ。わき見運転のトラックに交差点で突っ込まれて即死だったらしい。

そのことを知ったのは去年の中学の同窓会の時。サクラの恋人だったタクマの口から直接聞かされた。卒業後サクラと彼の間に何があったのかは知らない。ただ何らかの関係は続いていたようだ。

そしてそのときタクマはサクラのことを「優しい、いい女だったよ。本当に」と言っていた。サクラは世間一般から見れば典型の馬鹿女だ。だけど俺はタクマの言葉に賛成だった。

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